2005年11月22日

おれも知らない誰かを「私」にしてみよう。


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彼女を初めてみた瞬間、私は指先に熱い湿り気を感じた。

彼女を見たのは高校同士の交流授業というイベントである高校に行ったときのことだった。
授業というのは言葉だけで実際は生徒がそれぞれコミュニケーションをとって友好を深めるといった内容だった。5人ずつくらいでグループになりそのグループで話したり笑ったりしていた。

私は10分ほど遅れてそのイベントに参加した。単に寝坊だ。ガヤガヤと人の声が聞こえる教室にそっと入ったときに彼女が見えた。

長い黒い髪が頬の辺りで内側にカールしていて背は165センチくらいだった。
はじめてみたときの印象はそんなものだったがもうひとつ特徴が見てとれた。
彼女の右目の黒目の部分に白い濁りがあった。それは直径5ミリほどで黒目を占領しようとしているようだった。彼女をみてすぐにわかった。彼女の右目は私の右目とは明らかに違うと。

そう感じると同時に私は一瞬息ができなくなった。理由はそのころはよくわからなかった。自分の体に起こった不可解な出来事に焦り、指先に汗を感じたのだと言い聞かせようとしたのを覚えている。

40分間、プログラムがつらつらと流れていく間、私は彼女のことが気になってしょうがなかった。車座になった五人ほどの円が教室に10個ほどある。そのなかで一番黒板に近い円。私の目はそちらを意識せずにはいられなかった。私の視線に気づいてこちらを見返してくる彼女を想像してはその不思議な右目のことが気になり、それを恐れて私は別の方向を見る。恐れていたのだ。

しかし気になってしょうがない。その理由はよくわからない。でも彼女を知りたい、というより彼女とただただ話がしてみたいという欲望に駆られた。


プログラムが終わり散会となった。10個の円はその形を失いそれぞれが自由に動き出した。

私はいつのまにか彼女の前に立っていた。私の頭のすべての制御をつかさどる機能が消えうせ、私は無意識のまま歩を進めていた。

私をみて少しはてなとした表情を浮かべ彼女はこちらを見た。その右目は近めと遠めでみるのとでは大きな隔たりがあった。

真っ白に見えたその濁りは少し緑がかっていた。そして白目の部分には茶色の斑点が何個か見えている。まるで右目があるべき場所にきれいに磨かれたヒスイが埋め込まれているようだった。私は目に何かが溜まるのを感じた。


周りはがやがやと人が動き回っていた。私の行動に気づいたのは彼女だけだっただろう。そして私は彼女にしか聞こえない声で言った。



「僕は君のことをまったく知らない。  でもなぜか君が好きだ」




自身に響いた声はいつもどおりの声だったが唇に突き刺さるような感覚だった。一切何も聞こえなかった。彼女は少し驚く様子を見せたが静かにこちらを見ていた。

五秒ほど経って私はこう続けた。


「いきなりなんでこんなことを言ってるのか僕にもわからない」


言いながらまた指先に熱い湿り気を感じていた。


口はそう言いながらも私の心はこう思っていたんだろう。

早く彼女に伝えないと今自分を支配しているこの気持ちが一瞬にして消え去り、彼方まで続く真っ白な沈黙がまたとない運命を隠してしまう、と。
・・・今だから明確にそう考えられる。過ぎたことを思い出すとき、往々にして人は他人事のように自分自身の引き出しをぞんざいに開け放つ。


私のそんな気持ちを彼女の不思議な右目に全て見透かされているような気がしたその時、彼女は右手を私の顔の高さまで上げ、細長い人指し指を天井に向けて立てた。そして微かに笑みを浮かべて言った。


「この指が見えますか?」


「よーく見えるよ」



微かだった笑みは小さなえくぼを作った




「この指がよーく見えるあなたにわからないことなんてないわ」






「君は見えない?」





「見えるよ、でもあなたは少しぼやけて見える」




「確かにいきなりなこと、ごめん、、、でも多分本気のことだよ」





「あなたは私を幸せにしてくれそうね」




そう言って彼女は部屋を出て行った。
私はそこに立ったまま動けないでいた。

いつの間にか指先の湿り気は消えていた。
posted by Khaki at 14:53| 京都 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | story | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月19日

土の画用紙の月

25歳の藤次が自宅の庭に穴を掘り始めて2ヶ月になる。9時から20時までの仕事を終えて家に自転車で帰ってきて、夕飯を食べてから24時まで、その行動は毎日行われている。

どこのホームセンターにでも売っているスコップひとつでたった一人でなぜそんなことをしているのかは藤次自身でさえ明確な理由が見当たらない。すでに穴の深さは3メートル、直径は1メートルにもなる。今日も脚立でそこまで降りてザクザクと土を掘ってはカレー用の鍋に詰め、それを持って脚立を登って庭の塀のあたりにに土を放る。その繰り返しだ。

このままだと近いうちに脚立では地上に戻れなくなりそうだ。夜、しかも真っ暗な穴の中で土の付いた手でタバコに火をともしながら自分がしている行動を思い返してうっすら笑みを浮かべる。

仕事に不自由はない。どこにも彼を疎む存在は社内にいない。無口な彼を目の敵にする人間はいない。同時にどうしても必要だと考える人間もだたの一人もいない。
彼自身はそんな自分のポジションが好きだ。仕事を仕事と割り切って生活することをある種の美学と考えている。こんな人生もあるということを自分の体で実行している。一人で朝起き、一人で仕事をして、一人で夕飯を食べて、一人布団の中で夢を見る。
自分が孤独だ奴だと考えたこともあるが世界のどんな人間も本質的には皆一人で孤独と共に生きているのだという考えがあった。

今、穴を掘っているのは単に趣味で、人が本を読んだりヘッドホンで音楽を聴いたり、料理レシピを見ながらアップルパイを作ることとなにも変わらない。「なぜしているのか」はわからないがその趣味が自分を動かしていることは認識できるし動かされることに心地いい気分になることも認識できている。なんのことはない。夕飯を食べてテレビを見ていた時にふと土を掘りたくなったのだ。埋蔵された財産を見つけるためでもなく、なにかいかがわしいものを埋めるためでもないし、頭がどうかしたわけでもない。誰にでもありうる衝動が今のところ2ヶ月間彼を支配しているだけだ。

このまま穴から這い出ようとしたときに周囲の土が崩れてそのまま地下3メートルに埋没してしまったらどうしようかとも考える。地上を見上げると黄色い月がかかった薄い雲ごと白く光っている。月の光がどれだけ明るいのかを藤次は2ヶ月のうちに気づかされた。自分の体さえもほどんど見えないし穴の壁がどこまでなのかも手で触らないと気づかない。銀色の脚立のか細い光が何とか見えるくらいだ。脚立がなければここが穴の底だとも気づかないかもしれない。砂場に突っ立っているような錯覚に陥る。あるいは盲目の世界観か。

月が前より好きになっていた。

吸い終わったタバコを地上に向かって力いっぱい指で弾きあげる。タバコの火が弧を描いて月を霞めてなんとか穴から出る。そろそろ弾きあげても穴に戻ってくるな。手探りでスコップを見つけてまた見えない穴の底を掘り始めた。

それから10回くらい脚立を往復して穴の底に戻る時、地上から1メートルのところに茶色の紙が埋まっているのを見つけた。角の部分が5ミリほどとあまりに見える部分が少なかったためにずっと気づかなかったが明らかにそれは紙の角の部分だ。
藤次は持っていた鍋を穴の底に落として、バランスをとって紙の上部を指で掻く。B5ほどの大きさの紙のようだ。後になるにつれてジェンガからブロックを抜くような指使いに変わる。土が自分を飲み込むシーンを想像しないように右手をその紙の上に当ててそっと土から剥がした。それは指ざわりから察するに画用紙のようだった。

この二ヶ月間、そんなことはなかった。というよりは不可能だった。全く見えない土の壁を見ようとしても見えるわけがない。見つけたことというよりも紙の1片に眼球がピントを合わせたことに驚いた。そして見つけた今からすれば「なぜ今までこれに気づかなかったのか」に驚いた。

ちょうどもう24時も近いようなのでその紙を地上に戻った。そっと土をはたいて玄関の白熱灯でその紙を眺めてみた。
posted by Khaki at 02:10| 京都 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | story | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月11日

んなわけねぇって!

不意なことだったからなんか笑ってしまった。

今日の6講前、T嬢と自転車を停める場所を探してた時のこと。
おれはすこし離れたところに置いて戻ってきたとき。

T嬢の発した一言。

「今、メガネの女の人にガン飛ばされましたわ」

んなわけねぇって!んな奴はおらんわ!
見ず知らずの人にガン飛ばす奴とか!

おれが「えっ、どんくらい?0.5秒くらい?」

…今思えばおれのその返しもどうなん?って感じだけどそう聞いたら、

1秒くらい」とのこと。

…1秒って相当長ぇぞ〜。
見ず知らずの人と急に1秒も見つめあうことなんてお互い一目惚れだろそれ。

ガン飛ばしてきたとされるメガネ女はおしゃれ系の格好だったことからT嬢がしてた耳あてを見てたんじゃないか?ってことで話は〆た。実際その通りか気のせいだろう。

そういうおもしろ体験おれもしてみたい。
全く不可解で直接的で訳わからんこと。


それはもしかしたら壮大なストーリーの幕開けだったのかもしれん。

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気になってそのメガネ女をつけていく。
たまにこちらを振り返りつつも先に進むメガネ女。

校舎をつっきったところで急に前のメガネ女が消える。
後ろに気配を感じ後ろを向いてみると…
そこにはメガネ女と右腕しかない黒紳士。
黒紳士の左腕があるべきところには直径1メートルほどの禍々しいグラデーションの
異次元空間が……!!ゆらゆらと上下しながら形をなんとか保っているアメーバのようだ。

「あなたが今見ているものは、あなたがずっと見たかったモノのはずよ。」とメガネ女。
驚いた表情のこちらをみてメガネ女は微かに笑みを浮かべた。

そして続けた。
「これはある世界への入り口。あなたがかつて想像した世界への入り口。
 あなたが行くことを躊躇するはずがないわ。
 すべては今日のためのあなたの計画だものね。
 そうでしょ?」

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的な。


絶対不可解なことの先は追うべき。


posted by Khaki at 01:30| 京都 ☀| Comment(0) | TrackBack(2) | story | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月23日

丑三つ時に一人で 2

前の記事でなんであんなことについて書いたかって言うと、実は今日ちょっと似たようなことがあったから。それでちょっとジワッと汗出る程度に焦ったからだ。

まあそのことを書く前に先に。
前の記事の結論は、結局「理由はわからん」ってことだ。今日起こったことはまさしくなんで起きたかの理由はわからない。そして起こったことは言うなればラップ現象っぽいことかもしれないし、べつにおれの思い違いなのかもしれない。ないと思うけど一時的に気がふれたのかもしれない。
そして実際、他人のあなたにとっては別になんでもないことだと思うだろう。
「あっそ」程度に読んでほしい。

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   今日の22時40分くらいだったかな。なにやら爆笑問題と阿川佐和子が出てる番組を見ていた。内容はライブドアの堀江とかゆうぽっちゃり系についてどう思う?みたいな感じのことが主で、他には石田純一がどうとかエビバーガーがどうとかやってた。
んでおれは「これサンジャポと一緒だな」とか「へそくり平均額、二百何万とかすげーな、おい」とか思いつつ、結局「風呂だな。」と思って浴槽に湯を溜めに行った。

おれはよく居間で音楽を鳴らしたまま風呂に浸かりそれを聴きながらぼんやりする。今日もそうしようと思ってフィッシュマンズの「空中キャンプ」を鳴らして、テレビを切って風呂に行った。ボリュームを大きめにしとかないと風呂場であまり聴こえない。フィッシュマンズの音量は大きめで。

風呂に浸かる。シャワーノズルを手に持って熱い湯を出していく。少なくて温めの湯の温度を上げていく。シャワーの音でフィッシュマンズは聴こえない。いい具合の湯加減からさらに熱くて我慢ならんくらいに湯温を上げてからシャワーを切った。

ぼわっと湯気が立ち上る。少し風呂場のドアを開けてフィッシュマンズの音がもっと聴こえるようにしてぼんやりと浸かる。外の冷たい空気が少し入る。

静かに浸かっているともう音楽しか聞こえない。二曲目の「ベイビーブルー」の最後が流れてる。なんともいえない浮遊感。

熱くてしょうがなかったお湯もいい具合にまで落ち着いてきた。

なんかいろいろ考えごとをしているころ、5曲目の「ナイトクルージング」がかかっていた。
そのときはたしか旅行プランについて考えていたと思う。

とりあえずまず国内では山口には行っときたい。
「四日間の奇蹟」のロケ地、角島は絶対に行っときたい。
連れの車で行くとしたらやはり山陰ルートかな。
京都まで来てもらって9号でひたすら山口に向かう。
そして砂丘に寄りつつ、出雲でそば食いつつ、秋吉台に行ってみつつ。
あっ、吉田松陰神社にも確実に行かんといけんなぁ。山口のどのへんにあるんじゃろ。
・・・となると最低でも3泊はしときたいところじゃなぁ。
全部旅館だと金がきついし、ユースかな、それか車中泊、最悪テント持っていくか。
ラスト1泊は宿取っときたいところじゃなぁ。九州上陸もしたいとこじゃけどなぁ。
ふぐの安くていい店調べんとなぁ、市場の食堂とかうまくて安いよな。
あっ、ってか今山陰地方とかって雪じゃねぇか?昔皆生温泉行ったとき雪だったぞ。
雪だと車はきついかな。とはいっても瀬戸内海側は神戸まで地獄じゃしなぁ。
18切符だと駅から遠くまで自由に動きにくいからきついな。
角島の橋歩くとかきついしなぁ。
うーむ。

そんなこと考えていて、ふと気づいた。

フィッシュマンズの音量が大きくなってる。

「いやまさか」と感じられないほどに大きい音だった。
「ナイトクルージング」のラストの2分くらいだ。
さらに音は大きくなっていってる。

なんだなんだと思いつつもどうにも動く気になれない。一体何が起こってるんだ?

いざなうようなアルベジオとピアノとノイズが絡まった音が迫ってくるような感じ。

あまりに音が大きすぎて隣人がノックしてきてしまう、と考えてしまうほどの大音量だ。

汗がさらにブァッと噴出して顔と腕がが熱くなった。

誰かが音を大きくしてる?いやまさか、、、いやでも部屋のドアの鍵はかかっていない。

いやまさか、、と考えているうちにものすごい爆音のまま曲は余韻を残して終わった。


次の曲は「ナイトクルージング」と比べてあまりにも小さい音だった。

たぶん通常通りの音量だろう。

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3分後くらいに風呂からあがって「ナイトクルージング」をもう一回聴きなおした。
けど別に音量が途中から急に大きくなっているような感じはない。
ラスト10秒くらいはピアノとアルペジオだけになって音がディレイするので広がってくる雰囲気があるけど、さっきとは比べようもない。

おれはよく同じ方法で音楽を風呂で聞くからわかるけど、今日の爆音は風呂の中の反響で音が響いただけとは思えない。たしかに反響はするけどどう考えてもあんなにでかくはならない。

もちろん誰も居間にはいなかったし、誰かきた形跡もない。
風呂に入る前と一緒。


・・・最終的に「理由はわからん」って結論なわけです。

また「空中キャンプ」がかなりイってるアルバムだからなんか気持ち悪いんだ。下のジャケットでもうわかるでしょ。ものすごい「彼ら」の世界にいざなってるもん。。 よかったらレンタルしてみて。
これが「あしたがあるさ」とかだったら全っ然気にならんと思う。あ、RE;japanのほうね。坂本九の方だとちょっといざなってるかもな。

あとはオレンジレンジとかだったら気にならんな。ってか気づかんな。
これが電気グルーブやasian dub fundation、Mandodiaoとかだったら逆にアがる。

長読にひたすら感謝。


空中キャンプ
music

posted by Khaki at 02:13| 京都 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | story | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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