2005年12月07日

回想のビュイック8

 

著 スティーブン・キング

この下の記事を読んでみてこれを読んでみようって人はおそらくいないだろうからネタばれもしてしまえ。この著者の作品の忠実な愛読家ではなく、スティーブン・キングを初めて読んでみようと思うならばこれはあんまり勧めない。おれが(ほぼ)それでボチボチだったからだ。
出会いは、「幸運の25セント硬貨」のような短編集(これは押せる)や、いっそのこと「グリーンマイル」や「ドリームキャッチャー」で果たすべきなんだろう。

おれは「刑務所のリタ・ヘイワース」を読まねば。ストライクじゃないはずがない。

見てのとおり上下2巻の長編だが、(正直な話)上巻の後半から下巻の中盤くらいまでの間があまりに長すぎるしずっと回想だし、ストーリー自体はあまり進まないし、似たことといえば似たことばかりが何度もおきる感じでうっとおしかった。上巻でもうやめようかとも思ったけど、下巻は生協で3冊買えば15%オフのキャンペーンに救われた格好だ。


ビュイック8ってのは見た目、車だ。しかしこのビュイック8は車の形をしているだけでいったい何なのかはさっぱりわからない。トランクから悪夢のような禍々しいものを急に出したり人を飲み込んだりする。その車のまわりの人々の話なわけだ。

ビュイックを例えるならば、寒い日に外から帰ってきて、すぐに風呂に入ろうと思って服を脱いで風呂へ、風呂のフタを開けて湯をすくってささっと体にかけてそのまま浴槽に浸かる。
「あぁぁぁ〜」と唸りながら天井を眺めてみると、、、天井に馬鹿でかい蜘蛛がいた。長い足とあわせて7センチくらいの。一瞬、蛇口に頭をぶつけそうになるほどびっくりする。
あわてつつも毒はないだろうからこちらが何もしなければ何もなかろう。やつはみなかったことにして風呂を満喫しよう。……しかし奴が気になる!  その蜘蛛こそビュイック8だ。

スティーブン・キングの作品をグロいホラーとグロくないヒューマンに分けるならこれはぎりぎり後者だろう。ギリギリだ。帯には「ぐちゃぐちゃホラーが好きじゃない人はこれを読め!」みたいなことが書いてあるけど頭の中でパプワ君に出てくる丹野くんを想像できれば、どう転んでもぐちゃぐちゃだ。胸くそ悪くなるシーンもある。
ストーリー的に「お前の心打つものだったか?」と言われればおれは打たれなかった。・・・長編を読んで心打たないことほど虚しいことはない。

ただやはり超売れっ子たるゆえんは嗅ぎ取れた。ストーリーで心打たれなくてもおれはプロットで打たれた。構成と演出がうまい。「物語」という言葉で、ストーリーが「もの」ならばプロットは「かたり」だ。  

この作品のほとんどが回想シーンだ。そしてその語り手は著者ではなくキャラクターだ。それはよくあることだが、その語り手となるキャラクターが入れ代わり立ち代わりする。しかし最重要人物が語り手にはならない。し か し、最後の最後で。
「いつかくるとは思ってたけどやはりきたか!しかしここでか!」みたいな感じでやられた。しかもその微妙なフォント!
いやはや芸が細かい。

・・・主人公の高校生の親父が死んだ交通事故がこの作品のキーだが、あとがきをみて驚いたが著者自身がこの小説をほぼ書き終えた時期に、自分が表現した交通事故に酷似した交通事故に遭ったようだ、あたかも予見していたように。小説どおりにもし死んでたら完全にミステリーになっただろうな。ミステリー作家が自分の死を知っていたかのような。

この小説のなかで、漁師は寝ているときにも海の鼓動を感じていて心臓が波打っているってな雰囲気の表現がある。まさにこの著者だ。まさしくそれはだれにでもあることなのかもしれないな。
posted by Khaki at 23:34| 京都 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | book | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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